経営者・会社からの相談
「パワハラの訴えに対する上司の処分と対応の注意点」
Q.当社の一般従業員3名から、特定の上司に対して、パワハラを受けているので、上司を異動して欲しいという要望が出されました。
ネットで色々と調べたところ、パワハラの要件に合致した場合には処分してよいというようなことが載っていました。
3人が要望しているということは、ほぼ間違いないことだと思うので、異動も含めた何らかの処分をしようと思っています。
その際気を付けることは何かありますか?
これまで当社代表が「ハラスメント」と言われるケースで関わった経験からすると、このようなケースで従業員を処分してしまうと、処分された従業員だけではなく、訴えた側の従業員にも悪影響が残るということを実感しました。
<処分が行われると、「被害者」と「加害者」の立場が逆転する>
処分が行われた時点で、処分された従業員にとっては、自分を訴えた相手が「加害者」であり、許せない存在になって恨みの対象になってしまいます。
「被害者」だと思っていた従業員は、なぜ自分が恨まれなければいけないのかと戸惑い、そのことをきっかけに心を病んでしまう方も多くいらっしゃいます。
処分は、「被害者」のためにもならないことが多いのです。その経験を生かした、最近の事例をご紹介します。
<ハラスメントと訴えられた上司との面談>
その会社では、部下からの「上司からパワハラを受けている」という訴えに基づいて、上司を懲戒処分にしました。
懲戒処分を受けた上司は、処分は不当であるとの不服申し立てを会社にしてきました。
パワハラを受けたのは自分の方であるという主張です。
そこで我々は、会社の人も立ち合いのもとで、上司との個別のヒアリングと話し合いの場を持ちました。
そこで聴いた上司の話は、「部下は気難しい人だと認識していたので、とっても気を遣って接していた」「他の社員も彼女には苦労していた。自分だけが処分を受けるのは、全く納得がいかない」というものでした。
一方で、制裁ではない、前向きな理由での部署の異動は受け入れるという姿勢も持っていました。
性格の合わない部下と、これからも働き続けることは、お互いのためにも良いことではないということはわかっていたわけです。
そこで我々は、会社の方の了解を取った上で、部下の方の了解が取れれば、今回下された懲戒処分を撤回することを上司に約束しました。
<ハラスメントをされたと訴えた部下との面談>
上司との面談と同じように、我々は会社の人も立ち合いの下で、部下との個別のヒアリングと話し合いの場を持ちました。
そこで部下は、「自分は上司の異動は求めたが、上司が懲戒処分されることは求めていない」「上司が処分されたと聞いて、こんなやり方では上手く行かないなと思った」と話していました。
その他にも、上司の悪口や、会社批判とも取れる話を「ユーメッセージ」でバンバン話します。
率直な感想として、これじゃあ上司を含めて、周りは手を焼くだろうなと思ったものでした。
そこでひとまず上司の処分は撤回することに関しての了解を部下から取って、話し合いは終了しました。
<人と人との行き違いを、どちらが正しくて、どちらが間違ってるかという、善悪の問題にしてしまうから、問題がこじれてしまう>
職場において、立場や役職の違いから、同じ場面に遭遇しても、見え方が全然違うということがよくあります。
よくあるのは、上司が仕事とは関係のないプライベートなお誘いを部下に対して行って「嫌だったら断っていいよ」と悪気無く言ったことに対して、部下からしたら「行きたくないけど、それをそのまま言ってしまうと上司の機嫌を損ねてしまって、その後働きにくくなるので、誘いに乗っておこう」という判断をしてしまうことです。
このケースが、男性が上司で女性が部下だと、「部下の女性は上司である自分のことを悪く思っていないようだ」という勘違いに繋がり、それがセクハラになることも多々あります。
そしてそこに会社が介入して、上司の行為をセクハラと認定して、上司を処分してしまうと、上司としては大いに不満が残ることになります。
これが争いごとになると、上司は「勘違い」させるようなSNSのやり取りを持ち出して、「部下は自分に気があった」ということまで言い出します。
これは部下の女性を大いに傷つけますが、特に上司に弁護士が付いた場合には、相手方の弱みと思われる箇所を徹底的に攻めるという傾向になりがちなので、多くのケースでこのような流れになってしまいます。
行き違いを、善悪に変えてしまうことで、加害者だけでなく、被害者も傷つけてしまうのです。
<会社がやるべきことは、対立的関係にならないような環境作り>
よく会社側が取る措置として、「ハラスメントを行ったのは誰だ?」という犯人捜しをして、その「犯人」を懲戒処分にするということがあります。
上で述べたように、このような措置を取ってしまうと、不満に思った上司は争いごとに持ち込み、「加害者」と「被害者」の対立に繋がってしまい、それは結果的に「被害者」を傷つけることにもなります。
会社がやるべきことは、まずは「被害者」の心の内に起こっていたことを「加害者」をはじめとした、会社側の方々が共有することだと思います。
対立の図式になってしまうと、「加害者」が「被害者」の心の内に寄り添うのは、とても出来ない工程になってしまうので、会社としては、「加害者」も「被害者」も一緒になって考えるという流れを作ることが、大事なことになります。
その場で、今回の行き違いはなぜ起こったのか?今後同じようなことが起こらないためには、「加害者」はどんな言動が選択できたか?ということを考えます。
「被害者」も、当時とは別な、どんな返事の仕方が考えられるのか?ということまで話し合えると、被害者を生まないための会社としての予防策作りにも繋がりますね。
<目指すコミュニケーションを学ぶための研修の実施>
上記の事例では、まずは法人代表を含む幹部社員を対象とした、コミュニケーション研修を行いました。
そこでは、行き違いが発生しそうな時に、率直に確認できるようなコミュニケーションの仕方を学びました。
全従業員が、平和的なコミュニケーションを学んで、そこに向かっていくことを、会社の方針とすることは、とても大事なことだと思います。
全ての会社内でのコミュニケーションを、分断ではなく繋がりを作るために行うという意識を、全従業員が持つことで、全員にとって居心地の良い職場になっていくと考えています。